経理のDX化とは?メリットや進めるステップ/進め方、成功のポイント、活用できるツールを紹介

公開:2024.5.10

更新:2025.6.23

2023年10月からインボイス制度が開始されました。新たな制度に対応するため、経理部門の多くで「インボイス残業」が発生していると話題になっています。

そうしたなか、経理業務をデジタル化し、業務を効率化する「経理DX」の必要性が改めて認識されています。

今回は経理DXの概要と経理DXを進展させるポイントについて解説します。

 

<目次> 

経理DXとは?

経理DXとは何か

経理DXとは、経理業務にデジタル技術を導入し、伝票処理や会計処理を自動化・デジタル化することによって、業務を効率化する取り組みのことです。

これにより、作業時間の大幅な削減、脱属人化、人手不足解消など業務の効率化・生産性の向上ができます。また、ペーパレス化によるコスト削減や環境負担の軽減、データの正確性の担保やミスの軽減、リモートワークへの対応が容易になることによる働き方改革など、様々なメリットがあります。

そもそもDXって?

DXとは「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略で、デジタル技術によってビジネスプロセスを変革し、新たな製品やサービス、ビジネスモデルを創出することを指します。

 GoogleやAmazonなど「GAFAM」と呼ばれる巨大IT企業が、世界的なDX企業として知られています。ご存知の通りこれらの企業登場のインパクトはすさまじく、創業から十数年で新たな市場を生み出し、私たちの生活を大きく変えてきました。

 今日では世界中の企業がこれらの企業に続こうとDXを進めています。

経理部門のDX化が重要な理由

企業のDXにおいて、経理部門のDXは非常に重要です。

 DXというと「システムを導入して業務効率化を図ること」との印象もありますが、DXの真の目的は、業務効率化のその先、データを活用してGAFAMのように新たな価値を生み出すことにあります。

経理DXには、企業全体のDXに不可欠なデータ取得・活用の土台をつくる役割があります。DXによって可能になる高度な分析やシミュレーションでは、経理関連データが不可欠だからです。

そのため経理DXは、DXに取り組む企業がまず着手する改革の一つといえます。

経理DXが求められる背景

政府の後押しや世界的なビジネス環境の変化など、経理DXが求められる理由はさまざまです。主な背景について整理していきましょう。

電子帳簿保存法などの法改正

2022年に電子帳簿保存法が改正され、移行期間を経て2024年1月からは電子取引データの保存が完全義務化されました。この改正に対応するため、多くの企業ではすでに経理システムを変更し経理業務のデジタル化を進めてきました。

これらの法改正は、経理DX進展の契機となったといえます。今後はさらに経理業務のデジタル化・ペーパーレス化が進むと考えられます。

 参考:電子帳簿保存法が改正されました|国税庁

 

2025年の崖

2018年経済産業省が公表した「DXレポート~IT システム『2025年の崖』の克服と DX の本格的な展開~」において、「2025年の崖」について指摘されました。

 レポートでは、日本のDXが進まず、新たな技術や改革に対応できない古いシステムが残ったままでいると、2025年以降、日本全体で年間最大12兆円の経済損失が生まれるという試算が紹介され、経済界の危機感が高まりました。

 このレポートによって「2025年の崖」が認知され、その後日本企業のDXが本格化したといえます。

参考:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省

 

人口減少に伴う労働者不足

少子高齢化が進む日本の総人口は2008年をピークに2011年以降は減少し続けており、人手不足が深刻化しています。

もちろん、経理部門も例外ではありません。そのため業務を効率化し、より少ない人数でより多くの経理業務を処理する経理DXへのニーズが高まっています。

 参考:人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)結果の概要|統計局

経理DXを進めるメリット

次に、経理DXを進めることでどのようなメリットがあるのか整理しましょう。「企業のDXの土台になる」とはどのような意味なのかについても詳しく解説します。
 

業務の属人化解消など、経理部門の業務改善が進む

経理DXを進めるには、業務改善が前提となります。

たとえば長年の取引先特有の慣習など、特定の人しかわからない・できない業務を見直して、無駄な工程をなくしていきます。

属人化した業務を誰でもできるようにするといった業務フローを改善することによって経理業務が効率化され、経理部門の生産性が向上します。

ミス減少・工数削減が可能になり、働きやすさ向上につながる

経理業務は複雑で正確性を求められる定型業務が多いことから、経理DXによる効率化効果が大きいといわれています。

経理DXによってミス減少・工数削減が期待でき、深刻化している人手不足に対応できるだけではなく、経理業務をリモート化する環境が整い、働きやすさの向上にもつながります。

書類保管スペースの削減やSDGsへの貢献

従来経理業務では、請求書や領収書、各種帳簿などを紙の形で保管していました。法改正に対応するためのペーパーレス化が進むことで、経理関連の書類がなくなり保管場所が不要になります。

また、紙が大幅に削減でき、SDGsへの貢献も期待できます。
 

企業のDX進展の土台となる

前述の通りDXの真の目的は、デジタル化されたデータを活用して新しい価値を生み出すことにあります。

その意味で経理DXの主眼は、経理関連の情報をデータ化し、他のデータと組み合わせてさまざまな分析やシミュレーションを容易にすることです。

 たとえば労務管理データと組み合わせて従業員の生産性を月単位、部署単位で分析したり、教育費や設備投資費用などと組み合わせて施策の効果分析を行うなどが考えられます。

 このようにDXによって業務の状況を示すさまざまなデータがリアルタイムで取得できるようになると、施策の効果分析やシミュレーションが即座にできるようになり、さまざまな場面での意思決定の質が向上し企業のDXが進展していきます。

 

災害や予測不能な事態に対するリスクヘッジができる

経理DXによって場所や時間に規定されずに経理業務を遂行可能にすることは、企業の危機管理体制の強化にもつながります。

今日では自然災害や戦争などの不測の事態に際し、事業を中断させない、あるいは復旧を容易にするためのBCP(事業継続計画)を策定する企業も増えてきました。

 経理DXによる経理業務のリモート化は、企業の事業継続においても重要なポイントといえます。

経理DXのデメリット

経理部門のDX化は、業務効率の向上や人的ミスの削減といった大きなメリットが期待できる取り組みです。

しかしその一方で、いくつかのデメリットも存在します。たとえば、システムやツールの導入には初期費用がかかり、企業によっては大きな負担となる可能性があります。

また、導入したシステムを有効に活用するためには、ITリテラシーを持つ人材が必要です。社内で教育を行うか、外部人材を確保するかといった判断も求められるため、導入前に十分な検討が必要です。

経理DXが可能な経理業務例

ここまで経理DXの重要性や概要について説明してきました。次に経理DXを進めるにあたって、どのような業務がDXによる効果を得られやすいのか、代表的な例を紹介します。

給与計算・経費精算業務

給与計算や経費精算業務はDX効果の高い業務の一つです。

給与計算を行うためには勤怠情報に基づいて、従業員一人ひとりの計算が必要です。残業時間や有給のほか、経費精算なども含まれ、経理部門の負担が非常に大きいといえます。

給与管理システムを導入し、各種計算を自動化することで、工数の大幅削減が可能です。

 給与管理システムは勤怠管理システム、人事労務システムと連携させ、勤怠データを自動的に反映させることで、計算間違いなどのミスをなくすこともできます。

請求書発行、受領~計上、支払業務

さまざまな業務で請求書の発行・受領が行われますが、一連の請求書関連業務もDXによって効率化が可能です。 

今日では電子署名機能もあるクラウド型の電子請求書サービスもあります。これらのサービスは経理システムなどと連携でき、請求書受領後の支払いや入金確認まですべてシステム上で完結できます。

紙ベースの請求書発行に比べて「95%以上時間が削減できる」と謳うサービスもあるように、大幅な効率化が可能です。

売上、仕入集計、計上業務

受注、発注、販売、在庫管理などの受発注管理業務も、DXによる効率化効果の高い業務です。

これらの業務は経理システムとは異なる販売管理システムで管理されます。企業のニーズによって形態は異なりますが、いずれにしても販売管理システムを導入することで電話やFAXで管理していた受発注業務の効率化・省力化が可能です。

また経理システムと連携させ一元管理することで、企業のキャッシュフローをリアルタイムで把握し、分析することも可能になります。

経理DXに役立つツール

経理DXに役立つツールとして代表的な4つのシステムについて解説します。

経費精算システム

経費精算システムは、従業員が使用した経費精算の申請、上長による承認、経理部門における振込データ作成や会計システムに送信する仕訳データ作成など経費精算に関わる一連の業務を効率化するためのシステムです。

領収書の読み取り機能、自動仕訳機能のほか社内規定に沿っているかチェックする機能なども装備されているものが多く、ヒューマンエラー防止も期待できます。

ワークフローシステム

ワークフローシステムとは、社内の申請承認業務を効率化するシステムです。社内には経費精算や支払、支払に関する稟議書、業務承認などさまざまな事柄について申請し承認するプロセスがあります。これを「ワークフロー」といい、従来、紙やメールなどで行っていた申請・承認をシステム化します。

ワークフローシステムを導入することで、申請から承認までの時間短縮、承認漏れ防止、リアルタイムの予算管理なども可能になります。
 

電子帳票管理システム

電子帳票システムは、日常の取引における受発注、納品書、請求書などの帳票類の作成から送付、保管まで行うことができるシステムです。必要な書類の捜索がすばやく簡単に行えるため、業務効率が向上します。

クラウド型会計システム

会計システムは会計・決算業務全般を行うシステムです。

かつては自社のパソコンやサーバー内で構築するオンプレミス型の会計システムを使う企業が多かったのですが、近年ではネットワークを介してクラウド上の会計システムを利用する企業が増加しました。

オンプレミス型に対するクラウド型のメリットは、第一にコストです。

オンプレミス型は自社のサーバー内にシステムを構築するため、サーバーやパソコンなどの設備をはじめ、システムそのものも自社で用意する必要があり、システム構築に対する設備投資が大きくなります。これに対してオンプレミス型は用意されたシステムを使うため、設備投資費を大幅に削減できるほか、システム更新なども自社で行う必要は基本的にありません。

セキュリティ技術が向上し、クラウド型サービスを提供する事業者への信頼が高まったこともクラウド型会計システムの普及を後押ししました。

経理DXの進め方

経理DXの進め方を4つのステップに分けて説明します。

ステップ1:現状把握

経理DXを行うには、まず経理業務全体の把握(業務の棚卸)が必要です。日々の業務を洗い出し、現状の業務フローを書き出していきましょう。

 そのなかで、同じような作業を複数人で行っている、同じ内容を複数部署で入力しているなど、重複している業務をピックアップしていきます。
 

ステップ2:理想の設定

現状把握ができたら、次はあるべき姿(理想)を検討していきます。

ここで役立つのが先行事例です。今日ではさまざまな企業がDXに取り組み、試行錯誤しています。これらの例を参考に、自社ならではの「未来の姿」を描いていきましょう。その際、最新情報を学ぶ機会をつくると、理想の姿がより充実したものとなります。

 このようにしてつくった未来の姿を関係者内で共有することで、改革の方向性をそろえることができます。

ステップ3:業務フローの改善

現状把握と理想の設定のステップを終えたら、業務フローの改善を検討する段階に入ります。重複業務を整理し、不要な承認プロセスをなくすなどを検討していきます。

新しいシステム導入から効果を十分に得るためにも、このステップは重要です。実際は、次のステップである「導入システムの検討」と行き来しながら、業務フローの改善を進めていくことになります。

ステップ4:導入システムの検討

業務フローの改善と並行して、導入システムの検討を進めていきましょう。外部ベンダーやコンサルタントなども活用しながら、候補となるシステムへの理解を深めるところから始めましょう。

導入プロセス、コスト、導入後のランニングコストのほか、希望する機能に対応できるのか、内部運用する場合の移行サポートのある・なし、機能拡張の際のコストや期間などが検討項目となります。

ステップ5:システム導入、運用開始

業務フローを改善し、導入するシステムが決まれば、あとはスケジュールに沿ってシステムを導入し、運用を開始することになります。

 このプロセスでは経理部門の業務を止めることなく、新システムへの移行作業を行うため、一定期間旧システムと新システムを同時に運用する必要が生じます。経理部門は月次決算や四半期決算、期末決算など、経営上重要な業務を担っているため、さまざまな点においてトラブルが起こらないよう支援体制を組み、慎重に進めていく必要があります。

経理DX成功のポイント

経理業務は全社に関わるため、経理DXを進めるには社内の協力が欠かせません。他部署の理解を得るうえでのポイントとなるのは、社内の情報ギャップを埋め、課題認識を一致させることです。

 理想の姿を描いたり、移行システムを検討する際には、まず他社事例や各種ベンダーなどに関する情報収取を行い、知識を深めることをおすすめします。

このようにして経理部門が得た知識や情報を社内にも共有し、自社の課題や問題点、さらには解決策の方向性などについて認識を一致させることで、改革をスムーズに進めることができるでしょう。

また、展示会の活用も非常に有効です。展示会ではさまざまなシステムやサービスが一堂に会し、効率的に情報収集することができます。そのなかで他社の話を聞いたり、自社と比較することで、気付いていなかった自社の潜在的な課題を発見することができます。

その気づきをベースに、他部署へ経理DXの重要性、ひいては会社全体のDX化を提案していくと説得力が増し、社内の合意を形成しやすくなるでしょう。

経理のDX化は何からはじめればよい?

経理部門のDX化を進めるにあたっては、まず業務を「債務管理」「債権管理」「財務会計」の3領域に分けて整理することが出発点となります。

どこから手を付けるべきかは、自社の改善ニーズによって異なるため、現状のボトルネックを把握することが欠かせません。課題が明確になった後は、優先順位をつけながら、対応すべき業務と適切なシステム・ツールを検討していきます。

また、別の視点として、既存のシステム環境を踏まえたアプローチも考えられます。
例えば、すでに会計ソフトを導入している場合、そのシステムと親和性の高いツールを選ぶことで、プロセス全体のデジタル化をより効率的に進めることが可能です。

まとめ

本記事では経理DXについてその背景や進め方、導入ポイントなどについて解説してきました。今日、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。経理DXは、今後のさらなる変化に対応する準備ともいえます。

そのためにも大切なのは、継続的な情報収集です。コロナが終息し、さまざまな展示会が本格的に再開しています。気になる分野のシステムやサービスの情報収集はもちろん、技術や業界の動向を知るうえでも、定期的に来場することで知識を深めていけます。まずは一度、足を運んでみてください。

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●執筆者プロフィール

大間 武
ファイナンシャル・プランナー(CFP)、株式会社くらしと家計のサポートセンター代表取締役/飲食業をはじめ多業種の財務経理、ベンチャー企業などの経理業務構築、ベンチャーキャピタル投資事業組合運営管理を経て、2002年ファイナンシャル・プランナーとして独立。2005年株式会社くらしと家計のサポートセンター、NPO法人マネー・スプラウト設立。「家計も企業の経理も同じ」という考えを基本に、「家計」「会計」「監査」の3領域を活用した家計相談、会計コンサル、監査関連業務、講師・講演、執筆など幅広く活動。